「なぁ……」
「何……?」
「あの………さ。お前の事、好きなんだわ」
「え………」
「俺、お前の事好きみてーなんだわ」
「犬飼君……」

部活が終わって、俺は屋上庭園にを呼び出した。
は俺の前に立ったまま下を向いてしまった。どんな顔してるのかわからないから、俺もどうしたらいいのかわからない。
夜久と一緒にいるのを見て、かわいい子だなと思った。
夜久が弓道部なので、どさくさにまぎれて話かけるようになった。そうしないと学科が違うから話す機会も全くないからだ。
こっそり夜久に聞いて彼氏がいるかとか、聞き出したり、情報収集も行った。
別の奴にとられる前に……なんて柄にもない事を考えている自分がいる。


「俺、本気だから」
「………犬飼君」
「急だから、別にゆっくり考えてくれたらいいよ。俺、待ってるから」
「……………わかった」
「ごめんな、急に呼び出して。寮まで送るよ」
「…………うん」


そのまま立ち去ろうか、どうしようか迷ったけど、もう秋になって日が暮れるのが早くなったから、俺は彼女を家まで送ることにした。
寮までお互い一言も話さなかったので、いつも以上に長く感じた。




「えぇええええ!犬飼、マジかよ!」
「んー?あぁ、まぁなー」
「まぁなって……犬飼先輩、落ち着きすぎじゃないですか?!!?」
「だってよ、騒いだところでどうなるもんでもねぇじゃん」
「それで!?返事は!?どうなったんだ!?」
「聞いてない」
「聞いてないって、どういうことですか!?」
「だからぁ!俺が返事は別にいまじゃなくてもいいって言ったの!」


に告った事を白鳥と小熊に言うと案の定ぎゃーぎゃー騒ぎ出した。
俺がアイツの事が気になってるのも一切話してなかったからびっくりするのは無理ないが…。
それにしても騒がしい。
部活が終わった後とは言え、弓道場の中だ。こんだけ騒いでいたら…。


「お前たち!うるさいぞ!」


ほら、鬼の副部長が怒った。
怒る副部長に、苦笑しながら俺たちを見る部長と夜久。木之瀬なんて大笑いしている。


「お前たち一体何を騒いでいるんだ!部活が終わったからと言って騒いでいいわけじゃないぞ!」
「まぁまぁ、宮地君。どうやら犬飼君に春が来るかどうかの瀬戸際みたいだし」
ちゃんに告白したって本当?」
「まぁなー」
「なぁなぁ夜久!昨日何か寮で言ってなかったのか!?」
「うーん…別にいつもと同じだったけど………」


白鳥が興味本位で夜久に聞くけど、帰ってきた言葉は予想通りだった。は相談とかするタイプじゃない。
は今日どんな風にすごしたんだろう…。
俺は案外あっさりしていて、当たって砕けろの気持ちだったから別にふられてもそこまでショックは受けないような気がする。
我ながら単純な性格だ。
これ以上何か言われるのも嫌なので、俺は着替えて寮に帰ることにした。根掘り葉掘り聞かれるもの、あまりいい気分じゃない。
その日は一日、に会うことはなかった。



三日後、と一度も会うことはなかったが、部活で白鳥とバカやって、宮地に散々怒られて、罰で片付けをした後のことだった。


「あれ??」
先輩こんばんは」

白鳥と小熊が、弓道場の前に立ってるを見つける。俺はその時、動けなかった。

「ごめん、犬飼君、借りてもいい?」
「おぉー!いいぜーーこんなヤツならいくらでも貸してやるよ!!!!」
「お、おい、白鳥!!」
「犬飼先輩、いってらっしゃい」


アイツらがこんなにも薄情者だとは思わなかった。
アイツらは俺を置いてさっさと帰ってしまい、俺との2人だけになった。
こんな場所で話してるのもなんなので、2人で屋上庭園に向かう事にした。


「ごめんね。なんか悪い事しちゃった」
「いや、別にいいけど」
「好きってどんな気持ちなのかわかんなくて、ちょっと悩んじゃった」
「…………」
「犬飼君と一緒にいるのは楽しいし、話してて面白いし、ずっといたいなって思う」


言葉を探すように、一言ずつ紡いでいく。
ちょっと、いっぱいいっぱいで、なんかすげぇー可愛いなんて、不謹慎にも思ってしまう。


「でも、すぐに好きかどうか答えは出そうにないから、もう少しお友達で仲良くしない?」
……」
「ワガママだと思うんだけど、ダメ……かな?」
「いや、俺が先走りすぎた。それに、それって全く脈がないわけじゃないんだろ?じゃあ、それでいいよ」


正直なところ、今はこれでいいのかもしれない。
むしろ、こういう結果を望んでたのかもしれない。
好きな気持ちには変わらない。少しずつ、進んでいければいい。


「お友達からよろしくお願い致します」
「つーか、もう友達だろ」
「うん!」


これが俺たちのスタートだった。







「隆文、あのね」
「んー?どうした?」
「私達、付き合おうか」
「ようやくその気になったか」
「お待たせしました」
「ったく、本当だぜ。まぁ、待った甲斐あったけどな」

そして俺たちはキスをする。

20110910