「お兄様、今度はいつお姉様が遊びに来るんですか?」
「ねぇねと一緒に遊びたい!」


いきなり詩と奏が僕のそばに駆け寄ってきて、頬を膨らませる。
いつものことといえばいつもの事だが、今日の二人はちょっと様子が違った。


「だって、お兄様ばかりずるいです!」
「ねぇねとデートしてるの知ってるんだから!」


さんが高校三年生の冬休み、年末に金久保家にしばらく泊まりにきた。そのときに詩と奏にかなり懐かれてしまった。
それから、さんがいつ家にくるのかとかずっと聞いてくるようになった。
彼女は大学に進学して、勉強に部活にサークルに・・・忙しい日々を送っている。だから僕も会う時間がだんだん少なくなってきている。
家族がさんを好きになってくれるのは嬉しいことだけど、やはり少々複雑な気分だ。


「しーちゃん、かなちゃん、誉を困らせないの」
「あーちゃん」
「環ちゃん」


二人が騒いでいると、後ろから姉さんがやってくる。
詩と奏に怒っているけど、姉さんだって、さんが大好きで、今じゃ二人でメールとかしてるらしい。この前のデートのときにどんな話をしているのか、彼女に聞いても答えてくれなかった。
姉さんの姿を見て、二人は僕の後ろに隠れる。


「私も会いたいの我慢してるんだから、二人も我慢しなさい!」
「でもー」
「だってー」


詩と奏が寂しそうな声を出す。
そんな顔をされてしまうと、僕が折れるしかなくなってくる。


「もう、三人ともさんがすきなのはいいけど、さんは僕の彼女だってことを忘れないでよね。今度、時間があるときに家に連れてくるから、それまで待ってて」
「本当!?」
「本当ですか!?」
「うん、約束」
「約束!」
「約束ですよー」


詩と奏と指きりをしてその日は落ち着いた。
しかし、結局、さんも僕も学校や仕事が忙しくて、時間が作れなかった。





「ねぇ、この後どうすんの?」
「うーん、午後の講義休校になっちゃったしなぁ・・・レポートでもしあげちゃおうかな」
「そうだねー。部活も今日なくなっちゃったしね。最近忙しそうにしてたから丁度いいんじゃない?」


午前中の講義が終わって真琴と午後からどうしようかという話になった。
今日は午後にも本当は講義と部活がある予定だったのに、急に二つともなくなって時間をもてあましてしまった。


「とりあえず、ランチする?」
「そうだねー」
「おーーい!」
「いたいたー。よかった」


すると、講義室の入り口に犬飼君と白鳥君がいた。
そして、その二人の横からひょっこり顔を出す可愛い双子の女の子たち・・・。


「詩ちゃん!?奏ちゃん!?」
「ねぇね!」
「お姉様!」


私の彼氏の金久保誉さんの双子の妹の奏ちゃんと詩ちゃん。
どうやら私に会いに二人で電車を乗り継いで大学まで来たらしい。たまたま大学の門のところで犬飼君と白鳥君が二人の姿を見つけて、私のところまで連れてきたらしい。
私に会いに来てくれたのはとても嬉しかったけど、どうやら二人は誉さんにも、ご両親にも伝えずに来たらしい。





「もう・・・どうして二人とも黙って出てきたの?」
「だって奏達、お姉様に会いたかったんです」
「ねぇねに会いたいって言っても全然家に来てくれないんだもん」
、アンタ相当好かれてるのね」


6人で食堂でランチを食べながら二人について話をする。双子たちは私の左右に座って、かなり満足そうだった。


「でも、金久保先輩心配してるんじゃないのか?」
「今は稽古中だから、一応メールを入れておいたわ。あと、自宅にも連絡して・・・環さんが出たから、一応、説明しておいたわ」
「んで、はどうするんだ?」
「うーん・・・せっかく来てくれたし、時間もあるからこの辺を案内するわ。それで、二人を家まで送るわ。二人とも、それでいいわね?」
「「はぁ〜い」」


犬飼君、白鳥君、真琴と別れてから、三人でいろいろ見て回った。
大学の中を案内してほしいと二人にせがまれて、案内することになった。その後は駅前のショッピングモールでお買い物をして、二人はとても楽しそうだった。
散々私を引っ張ってあれが見たいこれが見たいとせがまれたが、二人を家まで送る頃にはヘトヘトに疲れてしまったようで、口数も減って少々眠そうにしていた。
二人が、私を好いてくれていることがとても嬉しくて、すごく幸せな気分になっていた。





「奏!詩!」
「にぃに!」
「お兄様・・・!」
「二人とも、どうして誰にも言わずに彼女のところに行ったんだい?母さんも姉さんも心配してたんだよ」


家の近くに差し掛かった時、誉さんがこちらに向かってくる姿が見えた。
二人の姿を確認するなり、険しい表情で二人を向かた。
怒られるなんて思っていなかったからか、奏ちゃんと詩ちゃんは一歩後ずさって、私の後ろに隠れた。


「彼女に隠れても無駄だよ。分かってるんだろうね二人とも」
「誉さん、そんなに怒らないであげてください」
「でも、君に会いに行くなんて、もし事故にでもあったら」
「・・・・・・にぃに、ごめんなさい」
「ごめんなさい、お兄様」
「ほら、二人とも謝ってますから、怒らないであげてください」
「・・・もう、君に言われると断れないんだから・・・・・・」


それから誉さんが怒ることもなく、四人で手を繋いで家まで送り届けた。
環さんも、双子たちの姿を見て安心したらしい。
双子たちが迷惑かけたからとご両親に引き止められて晩御飯をご馳走になった。
一人暮らしをしている私としては久々に家族の雰囲気を感じられて、すごく幸せな気分になった。





「ごめんね、今日はいろいろ迷惑かけて」
「いいえ、私、二人が来てくれてすごく嬉しかったんです」
「嬉しかった・・・?」
「はい、だって二人が私のことちゃんと好きでいてくれてるっていう事でしょう?それってすごく嬉しいです」
「彼氏としてはすごく複雑なんだけど・・・」
「え!?あ、あの、でも、一番は誉さんですからね!?!?」
「分かってるよ」


帰り道、二人で手を繋いで駅まで送ってもらっていた。結局、ご飯を食べた後皆で談笑していて、すっかり遅くなってしまったのだ。
だから、環さんに彼氏としてちゃんと送りなさい!なんて言われてしまって、こうして二人で歩いている訳だ。
なんだか誉さんと手を繋ぐのも久々な気がした。


「でも、晩御飯までご馳走になって、なんだか私のほうが幸せな気分を分けてもらってしまいました」
「どうして?」
「だって、誉さんに会う予定じゃなかったのに、会えたし・・・・・・久々に家族の雰囲気も感じられたし・・・」
「あ、そうか。一人暮らしだもんね。実家には帰れてないの?」
「最近忙しくて・・・・・・」


本当は誉さんと会うのは週末の予定だったのに、奏ちゃんと詩ちゃんのおかげで、数日早く会うことが出来たのだ。こんなに嬉しいことはない。


「それに、誉さんの家は兄弟もいるから、なんだか見ててうらやましくて」
「ふふ、結婚したら、君も家族になるのに」
「誉さん・・・!」


結婚することが決まっているように、誉さんが微笑むので、恥ずかしくなって思わず下を向いてしまった。
顔が赤くなっているのが自分でもよく分かる。
誉さんは照れている私を見てくすくす笑っていたが、ますます恥ずかしくて顔を上げることができなかった。
駅に着いたので、お互いに足を止めた。


「本当にここでいいの?」
「だって、このまま私の家まで来たら、終電なくなってしまいますから」
「そう?ごめんね」
「気にしないでください大丈夫ですから」


繋いでいた手を離して、私は改札に向かおうとする。
毎回のことだけど、こうやって家に帰るときがとても離れがたい・・・。


さん」
「なんですか・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


不意打ちで、キスが降ってくる。


「そんなに可愛い顔をするのは反則」
「ほ、誉さん・・・・・・」
「さっき言ったことだけど、僕は本気でそのつもりだから」
「え・・・・・・」
「ほら、もうすぐ電車が来るから行かないと」
「誉さん・・・」
「また、週末に会えるのを楽しみにしているから」
「はい!」


私は誉さんに手を振って、改札を通る。
もう一度振り返ると、誉さんが笑顔で手を振ってくれていた。
あぁ・・・・・・どうしよう。


『僕は本気でそのつもりだから』


私と結婚して、家族になってくれるっていうことだよね・・・・・・。思い出しただけでどんどん顔が赤くなっていく・・・・・・。
私は予想外の事をもたらしてくれた二人に、感謝せざるを得なかった。





20110817