たんには、このウサギのが可愛いと思うピョン」
「ちょ、やっくん!?」
「あとあとぉー、色はピンクでぇ……」
「や、やだ、やっくんーーー!」
「髪型はぁ…やっぱりツインテールでしょ!」
「うわーん!どこ触ってるのよー!」



今日のアホサイユはとても騒がしかった。
八雲とがアホサイユの一室に篭ってなにやら怪しい声。千聖がドアの前で見張り、天十郎は…ソファーに寝転んでお菓子を食べている。



「ふーみん、てんてん、できたよー」
「馬子にも衣装とはこの事を言うんだな」
「おぉー!別人かと思ったぜ!!」
「うぅー」
たんはぁー、やっぱりこっちの方が可愛いなぁ」



やっくんの一言で私はフリフリのロリロリ…の服を着せられてしまった訳で。
なんとなく冗談で(本当に冗談で)着てみたい…なんて言ってしまったもんだから………。やっくんを止める事も出来ず。
普段はとてもボーイッシュで、こんな『女の子』な格好はしない。苦手なんだ…。



「やっくんてば、強引!!」
「でもぉ…たん可愛いのに、勿体無いぴょん」
「確かにな。普段の格好も似合わない訳ではないが……」
「アラタの奴、喜ぶんじゃねーの?」



てんてんの一言で私は我に返った。
アラタ……だ。



「やっくん!私もう着替えるよ!?」
「えー!ダメだよ!ぴーちゃんにも見せるのー」
「イヤだってば!着替えるからね!」



しかし…。時、すでに遅し。
アホサイユの扉が開く音がして、私は焦った。補習からアラタが戻ってきたらしい…。



「あぁもう!!私、帰った事にしといてね!」
「おい、!?」
「こんな姿見られるなら、死んだほうがマシだ!」



3人が何か言ってたけど、聞こえなかった。私はアホサイユの2階窓から逃げ出して、校舎の方に向かった。
アラタに見られないようにしなければならない。
アラタに見られてしまったら…私は終わりだ。



「ちょちょちょーっと、3人で何してるの?」
「もー!ぴーちゃんのせいで、たんがいなくなった!」
「は?」
「空気読め、このアホ!」
「へ?」
「俺の嫁にしようと思ったのに」
「だから、マジマジドマジになんなのさ!」







私とアラタは彼氏と彼女……恋人という奴。ClassZのA4の一人のアラタとClassZではあるけど、ボチボチな私。私は可もなく不可もなくという成績。平凡な女の子な訳です。
そんな私がアラタと付き合うことになったのは…向こうが猛アタックしてきたから。
いつも女の子をはべらせてて、気に食わないけれど…本当はとても真面目な奴なんだって分かった。私はアラタのファンの女の子のように可愛くないし、私のどこがいいのか分からないけどアラタは私を選んだ。
私は自信がない。アラタに相応しいのか本当に分からない。だからお茶会だって止めないし、むしろ、それでなんで私を選んだのか……我に返ってくれる事を望んでるのかもしれない。



「はぁ…何を考えてるの、私」



こんな格好、他の人に見られるのも恥ずかしいのに…私は校舎の中に入ってしまった。
アホだ。
前言撤回。やっぱり私は平凡じゃなくてアホらしい。



「どうしよう…」
「トゲー!」
「あ、トゲーおはよ」



頭を抱えてしゃがみ込んでいると、床に白いトカゲ…トゲーが話しかけてきた。



「何してるの、
「ま、まままま斑目先生!」
「僕の名前、そんなに『ま』は多くない」
「もうこの際誰でもいい!斑目先生、トゲー!お願い助けて!!」



しかし、コレが運の尽き…私は大逃走劇を繰り広げる事になった。







B6の先生達が次々と面白半分で見たがって、追いかけられ……。騒ぎを聞きつけたP2と生徒会連中にも追いかけられ…。逃げ切ったと思ったら桐丘先生のシュゲーナイトに引っかかりそうになり(ギリギリのところで逃げ出した)最後にはよく分からないけど、男子生徒にまで追いかけられていた。
しかしながら、普通の女の子よりは運動が出来るから、ヘトヘトになりながらも何とか逃げ切る事が出来た。
私はテニスコートのある建物の裏側まで逃げ込んだ。木の陰に隠れているから見つかりにくいだろう。



「動きにくいし、何コレ」



ヒラヒラのスカートを見て溜息をついた。




「もう……イヤ」



膝を抱えるように座って小さくなる。
もう情けなくてたまらなかった。A4と同じくらいアホだ。
アラタに見られたくないから逃げたのに、あんなにたくさんの人に見られて……。
溜息しか出てこなかった。



「お嬢さん、そんな所で何してるの?」



誰よ…こんな所でナンパなんてしてる奴………。
私は顔を伏せたまま、無視した。



「ちょちょちょーっと、無視は酷くない!?」



この喋り方は一人しかいなかった。
私は声の主を察した瞬間、立ち上がって逃げようとした。今度は校門の外まで一直線で。
否、私よりも遥かに運動神経がいいアラタに腕を捕まれて引きとめられる。



「もう、追いかけっこは終わりだよ、
「っ!!」
「ホント……逃げ足早いんだから…。でも俺が一番に見つけたのはやっぱり愛の力だね」
「…どうして」
「A4でを誰が一番に見つけるか競争してたんだ。てんちゃんのひらがな組みまで出ちゃって大変だったんだけどね。ま、が運動神経良くて本当に助かったよ」



あぁ!もう、MHS!(マジ本気死にたい)
私はアラタの顔を見れずに下を向いていると腕を引っ張られてアラタの胸の中にいた。



「本当にはアホだね。逃げたって捕まるに決まってるでしょ」
「ちょっと…アラタ?」
「アホだけじゃないな。バカだね」
「……い、言い過ぎじゃない!?」
「そんなが大好きなんだけどな」



アラタの言葉に私は顔を上げると、アラタが嬉しそうに笑っていた。
この笑顔から目が離せなかった。



「ったく、俺を避けるなんて、ちょー寂しいんですけど」
「だって…」
「だって、何?」



笑ってたアラタの顔が急に変わる。いつもヘラヘラしてるのに、とっても真剣な表情で……。すごく怯んでしまう……。こんな表情、滅多にしないから。



「俺のハニーはどうやら勘違いしてるらしいけど、俺の一番はだよ。信用ないかもしれないけどね」
「でもっ」
は自分にちょーっと自信なさすぎだけど、そんな所もMSK(マジすっげー可愛い)」
「…アラタ」
「強気で、男っぽい所もあるけど、やっぱり女の子で…可愛い服を着なくても十分可愛いし……俺と同じアホだし」
「ちょっと!最後の余計じゃない!?」



私がツッコむと、アラタはいつものように笑い始めた。



「自分を過小評価しすぎだよ。は十分可愛い」
「そんなこと…」
「あるの。あー…でも本当にが運動神経よくてよかった」
「どうして?」
「他の男にこんな可愛い姿のを捕まえられたら、俺、悔しくて切腹すると思う」



ウインクしながら恥ずかしい事をサラッと言うとそのまま『チュッ』とキスされる。
ビックリして目をパチパチさせているとまたアラタは笑った。



「ちょー可愛いよ。
「……ありがとう」
「さてと、そろそろアホサイユに戻ろうか」



アラタがいつも着ているカーディガンを私にかけてくれた。そして、人目を避けてアホサイユに戻った。







「やっくん、コレ返す」
「これはぁーもう、たんのものだぴょん」
「は?」
「だってー、やっくんが持ってても仕方ないしぃー」
「いや…私、いらないし」
「はいはーい。じゃあ俺がもらう」
「アラタ?」
「ンフ。が持ってても絶対に着ないから…。俺がきせてあ・げ・る」
「……やっくん、コレ燃やすね」
「ちょちょちょーっと!何でそうなるの!?」
「燃やすの!!」



2人の騒がしい声がアホサイユに響いた。



「喧嘩するほど仲がイイ。…だぴょん」



そんな2人をみて微笑むやっくんであった。