「おい、。何してんだ?」
「…………おはよ?」
「おはよって、もう放課後じゃねぇか」
「………うん」



大きな瞳をパチパチさせながら天十郎を見る。
はアホサイユのソファーの上に寝転んで本を読んでいる。



「千ちゃんの……ケーキ」
「ん?あぁ千のケーキを待ってるのか?」
「……天ちゃん」
「俺も一緒に食えって?俺、今から海に行くんでぃ!八雲とアラタはどうしたんだよ」
「………お仕事」



は再び本に視線を戻した。天十郎はしまったと自分の手を頭にのせた。
この無口な少女。ClassZの長谷部の相手をするのは一苦労だ。
無口かつほぼ無表情のため、まるで何を考えているのか分からない。
だから、彼女にとって今アラタの話が禁句だったことに気付かなかった。
彼女の機嫌がいい時はアラタの話をしても嬉しそうに返事をするが、機嫌が悪い時にアラタの話をしても、まるで返事がない。



、持って来たぞ」
「………………ミルフィーユ」
「紅茶でいいか?」
「うん…」
「千、俺の分も!ケーキ食ってから行く」



嬉しそうに目の前にあるミルフィーユを見ているの機嫌を千聖と天十郎は伺っていた。
は怒ったり泣いたりすると手が付けられなくなるからだ。
はアラタの彼女。
アラタのファンの女の子達と違って、はアラタを縛り付けないし、引き止める事もしない。
アラタ曰く、もっとこっちを向いて欲しいと思うらしいのだが…。
天十郎や千聖からすると、は十分アラタしか見ていない。







「…おいしぃ」
「そうか。次のリクエストがあれば聞くぞ」
「あ、俺タイヤキ!」
「天、お前には聞いていない。それに、タイヤキならひらがな組がいるじゃないか」
だけずりぃーぞ」
「天ちゃん、タイヤキ……食べたい」
「ん?俺様がいつも食ってるタイヤキが食いたいのか?おぉ!それならいくらでも持って来てやらぁ!」



は嬉しそうに笑いながら、ケーキを頬張っていた。天十郎も千聖もそれを見て少し安心していた。
しかし、アホサイユの外が段々うるさくなって来ている。



「何だ、騒がしいな」
「アラタの奴が戻ってきたんじゃないのか?」



外から聞こえるのは女の子達の声。
もうすぐ補習が終わる時間でA4を人目見ようと集まって来ているのだ。
天十郎と千聖が顔を見合わせた。
が急にフォークを置いて、黙っていたからである。



「………帰る」



急に立ち上がって、堂々と表から出ようとするを2人は必死に止めようとする。
ファンの子達と接触してしまえば、がどんな目に合うか分からないからだ。
アラタからを一人でアホサイユの外に出すなと言われていた。



「おぃ、!」



ドアを開けて、外に出ようとすると、の視界が急に暗くなり、何かにぶつかって前に進めなかった。







「マイハニー、補習が終わったらデートしようって言っただろ」
「……遅い」
「ごめんごめん。ティーチャーちゃんがなかなか離してくれなくて」
「…先生、悪くない」
「そうだね。俺のせい。……もぅ、可愛い顔が台無しだから膨れないんで」



『チュッ』
アラタはの頬に触れるだけのキスをする。



「ったくひらがな組を出動させねーと、心臓止まるかと思ったぜ」
「そうだな。明日からひらがな組を待機させておこう」
「ごめんね、チィちゃんに天ちゃん」



はアラタの腕の中でジッとしていた。
どうやら補習からタイミング良く帰ってきたアラタとぶつかって、は外に出れなかったようだった。



「…デート」
「ん?もうデートに行くの?ケーキ、残ってるんじゃない?」
「…………ケーキ」
「うん。ケーキ食べたらデート行こう」



は再び食べさしのケーキの方に向かった。
それを天十郎と千聖は横目で見ながら、アラタの傍に寄った。


「お前な、の機嫌が悪いなら先に言っとけよ!」
「いや、大丈夫かと思ったんだけど、大丈夫じゃなかったみたいだね。でも、本当、可愛いよね」
「惚気話ならいらんぞ」
「…天ちゃんのケーキ」
「あーーーー!!!!、俺のケーキ食うな!」



一触即発!?……それでも平和な日々。