「むー」
「……」
「うぅー」
「…………」



決して喧嘩をしているわけではないんです。
さっきから天十郎君の唸り声が絶えず聞こえているのだけど、決して喧嘩はしていない。
強いて言うなら、天十郎君が拗ねているだけ。
ここは私の部屋。
今日は天十郎君の大学の授業が土曜日にも関らずあって、仕方無いので、夕方からデートする予定だった。
今は3時。予定ではまだ授業のはずだったが、1つ休講になったらしい…。
そんな訳で、本人は驚かせようと私の部屋に来たのはいいんだけど……。
聖帝学園現国教師の私は補修のテキスト作成の真っ最中だったわけで……。
黙っていられたのは最初の10分。15分後にはこうやって唸り始めた。



「……はぁ」
「うーー。………ん?」
「天十郎君、そんなに唸られると集中できないんだけど」
「だってよぉー!」
「天十郎君に大学の用事とか家の仕事とかあるみたいに私にも仕事があるんだけど」
「分かってるけどよぉ、が傍にいんのに、なんで我慢しなきゃなんねーんだよ」



うん。今も昔も天十郎君はいつもこう。まだ…分かってくれるようになっただけマシだ。



「だってよ、ずりぃーだろ!俺じゃない奴の為に補習するなんてよ!」
「じゃあ、天十郎君も補習する?」
「うっ…。お、俺様には必要ねぇだろーが!」
「…そう?」
「おうよ!………ったく、に早く会いたくて来たのによ…」



最後のは小さい声だったけれど、私の耳にはしっかりと届いていた。
ブツブツ文句を言う天十郎君が可愛くて…。
椅子を天十郎君が座っているソファーに向けて微笑んだ。



?」
「天十郎君、可愛い」
「おまっ!俺様に向かって可愛いってなんだ!可愛いって!」
「もう、仕事終わりにするから機嫌直して」
「本当か!?」



仕事をこのまま続けられそうにもないし、天十郎君の可愛い顔も見れたし、今日はこの辺にしておこう。
私だって天十郎君に会いたかったし、二人の時間は大切にしたい。



「いいよ。私だって楽しみにしてたんだから。今からどうする?でかける?」
「いや、それより……こっち来い」



ソファーの上に座っている天十郎君が嬉しそうに手招きしている。
私は天十郎君の隣に座ろうとすると、「そっちじゃねぇよ」って言われ、天十郎君の膝の上に座らされた。
な、何………この状況。



「て、天十郎君?」
「いいじゃねぇーか。誰もいねぇーんだから」
「そ、そうだけど…」
「あんだよ…いい加減慣れろよ」



天十郎君は私をギュっと抱き締める。
温かくて、とても優しくて…。天十郎君の心臓の音も聞こえてくる。



「へへっ…」
「どした?」
「嬉しいなって思って…」
「俺様も嬉しいぞ」



天十郎君が「チュッ」っと首元にキスをする。



「あ、跡つけないでよ!?」
「何でだよ」
「だって…桐丘先生にこの前注意されたんだもん……」
「そんな可愛い顔すんなよ」



チュッ。
不意にキスされて思わず目を見開いた。



「可愛い顔するが悪い」
「もう…不意打ちなんて………」
「じゃあ、キスすっぞ…」
「……うん」



キスして抱き締めて…忙しい私達にはとても大切な時間。
本当、幸せだなぁって思う。







「もうこんな時間か」
「お腹空いた?」
「あー、うん。腹減った」
「何か作ろうか?」



そのまま待ち合わせの時間が過ぎるまでイチャイチャしていた。
というよりは天十郎君に離してもらえなかった。



「いや、せっかくデートするつもりだったんだ。出掛けようぜ」
「うん」
「美味いもん食いに行くぞ!」
「じゃ、準備するから待ってて」




立ち上がってすぐに天十郎君に呼ばれて振り返るとまたキスされた。



「愛してる」
「……………もぅ」



愛してる。何度言われても嬉しくて…。何度言われてもドキドキする。



「大好き」



天十郎君も同じだったらいいな…。