「瑞希ー!早く、早くー」
…そんなに走ったら……」
「クケーっ」


ベタンっ!
見事に転んでしまった。トゲーと顔を見合わせ、再びの様子を伺う。は黙ったまま倒れていた。
は僕の彼女でかなりおっちょこちょい。天然だし、よく喋るし、甘えん坊で、よくこける。
ゆっくり近付いてしゃがむと、はふるふると震えだす。こういう時はいつも泣いて大騒ぎ……のはずだった。


?」


ゆっくり顔を上げて起き上がるが、の泣き声は聞こえてこなかった。
は顔を歪ませたまま、目に涙は浮かべているが必死に泣くのを堪えているようだった。


「み、ずき……」
「偉い偉い…」


僕はの頭に手をのせて優しく微笑んだ。
はちょっとした事でもすぐ泣くから、我慢して僕を困らせないようにしようとしてるらしい。前に友達と歩いている時に、友達に泣いてちゃ子供と同じだと言われていたから、それを気にしているのだろう。


「み…ずき」
「傷、見せて」
「ん……」


膝を見事に擦りむいていた。僕は涙を浮かべたままの小さなを抱き上げる。


「瑞希?」
「保健室で消毒……しよう。大丈夫、傷は浅いから」
「…みず、き」
「もう泣いてもいいよ。…僕が連れて行って上げる」


すると僕の体にしがみついては静かに泣き始めた。




は保健室で目を真っ赤にして消毒されていた。(途中、痛い痛いと騒いでいたけど…)
帰り道ではの足取りが重く、大人しかった。
なんて可愛いんだろう……。


「はい」
「…?」
「手、つないだらこけないでしょ?」


てを差し出すと、はパァっと笑顔になって手を握ってくる。


「瑞希、あのねっ…」
「何?」
「瑞希とずっと手つないでてもいい?」
「…いいよ」
「あのね、私ね、…いっぱい転んじゃうけど、瑞希は怒らないよね」
「………?」


この前友達に言われた事をまだ気にしているのだろうか…。保健室で気にしなくてもいいって言ったのに…。


「泣くの、我慢しても…瑞希みたら安心しちゃってね…」


言いたい事がたくさんあるのだろうが、上手くまとまらないのだろう。
本当、可愛い…。
は見てたら危なっかしくて放っておけない…いつも笑顔で悩んでる事が馬鹿らしくなってしまうほど眩しくて。悩みも全部吹っ飛ばしてしまいそうなだから……僕は彼女と一緒にいたい。


がこけそうなら僕が助ける。…泣きなかったら泣いて……。泣いた後、が笑顔なら……それでいい」
「瑞希…」
「大丈夫だよ…」


心配する事なんて何もない。
僕は君がずっと大好きだから。安心して泣いてね…。




20110817(再録)