「「大きなクリの木の下でぇー。あなたとわたしー。なーかよくあそびましょー。大きなクリの木の下でぇー」」



幼稚園の帰り道、4歳になった千里と一緒に歌を歌いながら帰宅する。
スーパーで夕飯の買い物をしたので、荷物が多いのだけれど、
自分の右側にいる小さな息子も幼いながら荷物を持ってくれている。
その心遣いがとても嬉しくて、ついつい顔が緩んでしまう。



「今日はパパが帰ってくるから、お料理頑張らないと」
「…ママ、アイツ本当に帰ってくるのか?」
「こら千里!パパの事をアイツとか言わない」
「だってさー!」
「だってじゃないの!…それで、今日は何して遊んだの?」
「りょー君とロボットであそんだ!作ったんだよ」
「作ったの!?」
「おう!」
「じゃあ、鞄が膨らんでるのはそのロボット?」
「ママに見せようと思って持って帰ってきた!」
「そっか」



千里の心遣いはとても嬉しいのだけど、最近、銀児さんに対して、すごく素っ気無くて…。
仕事が忙しくて、家に帰って来ない日が増えた。
出張も増えて、家に帰るより、近くの鳳先生の家に泊めてもらってるみたい…。
(鳳先生はすごく迷惑がっているのだけど)
今日は久々に帰ってくるという連絡があった。
私はとても嬉しいけれど、千里はそうじゃないみたいで・・・。
それがとにかく心配だった。







「千里ー、お風呂あがったー?」
「ママー!ボタンが足りないー!」



何でも自分でやりたがる千里はお風呂も一人で入れるようになった。
銀児さんが家にいない間、私を困らせないように彼なりに頑張っているのだ。
お風呂上りで火照った頬の千里が走ってやってきた。
どうやらボタンを掛け違えたようで、ずれてしまっているようだった。



「この子が一人ぼっちだからよ」
「あー!本当だ!」



掛け違えたボタンを教えると一人でちゃんと直して、自慢するように私に胸を張った。



「パパ、遅いね」
「…………帰ってこなくていいもん」
「千里?」
「だっだいまぁ〜〜〜!」



千里が何を言ったのか小さくて聞き取れなかった。丁度その時、銀児さんがたくさんの荷物を持って帰ってきた。



「おかえりなさい」
「マイスイーーーートハニー!子猫ちゅあぁーん!会いたかったよーーー!!!!」
「お疲れ様、晩ご飯にします?お風呂もすぐに入れますけど」
「子猫ちゃんの手料理がたべたーい!」
「分かったわ。千里、パパと一緒に待っててね」
「オォー!我が息子よ!お前また大きくなったんじゃないのかぁ?」



銀児さんが千里の頭をなでる。



「千里?」
「俺に触るな!お前なんか、ママの事泣かせてっ・・・大ッ嫌いだ!!!!」
「千里!」



小さな男の子が爆発した。
千里は自分の部屋に走って入ってしまい、私が追いかけようとしたら、銀児さんに腕を掴まれた。



「俺が行くから、は夕飯の準備をしててちょーだい。千里も待ってたから、腹減ってるだろ」
「銀児さん……」
「だいじょーぶだって!この銀児様に任せなさい!」
「……うん」



自分が千里をこんなにも思い詰めさせていたのかと思うと胸が苦しくなったけれど、銀児さんの腕のぬくもりが、安心させてくれた。







10分くらいたった…。千里の部屋に入ってから時間が結構たった気がする。
晩ご飯の準備も終わってしまい、待っているのがすごくもどかしい…。



「ママーーー!」
「千里!!」
「今度の日曜日、ママのお仕事お休み!?」
「日曜日?お仕事はお休みだけど……どうしたの?」
「パパがネズミーランド連れて行ってくれるって!」



目をキラキラ輝かせて、私に話をする千里はさっきの怒りもどこかに飛んで行ってしまったようで…。
驚いて、銀児さんに視線を向けると、ウインクして笑っていた。
…やっぱり、この人はすごい人なんだ………。



「よかったわね。でも…パパにちゃんとごめんなさいした?」
「うっ…」
「いい子しかネズミーランド行けないんだけどなぁ……」



ちょっとイタズラで千里に言うと、すごく困った顔をしていたけれど…。



「パパ、ごめんなさい」
「おぅ!つーか、マジで腹減ったぁぁー」
「もう、準備は出来てますよ。お茶いれますね」
「俺もおなか空いたぁー!」
「はいはい」



テーブルにつく2人を見て、私はお茶を入れるためにキッチンに戻った。
すると、銀児さんが私の傍に寄ってきた。



「寂しい思いさせてゴメン。千里に怒られたよ」
「銀児さん……」
「離れててもずっと、の事考えてた。これマジだから」



そっと唇が重なって、私はドキドキしてしまった。



「ママー!パパー!まだー?」
「今、行くわ」



千里がいることを忘れてしまうくらい嬉しくて…ドキドキした。
久しぶりの3人の食卓はとても賑やかで、寂しかった事なんて吹き飛んでしまった。
2人は私に元気をくれる大切な人達…。