季節が何度か巡って、私も気付けばベテランの教師。
そして、私の名前が『』から『草薙』に変わった。


先生、さようならー」
「また明日ね」


名前が変わっても学校では昔のまま。やはり仕事上はこっちの方が都合が言い訳で…。
でも、『草薙先生』って呼ばれてみたいのも本音。


「キャー」
「ワー」


って…人がせっかく新婚の幸せを感じてたのに…。
校門の方が騒がしかった。周りに先生方も見当たらないし…。私が見に行くしかないのか…。
溜息をつきながら、校門の方に行くと、生徒やら生徒以外の若い女の人やら…とにかく人でいっぱい。こんなの、B6がいた時以来じゃない!


「ちょっと、貴方たち!!」
「あっ発見!」
「はっ一!?」


そう、そこにいたのは私の元生徒。そしてB6という顔はいいけど馬鹿ばかりの六人組の一人。色々問題はあったけど、今は私の旦那さん。そして、プロのサッカー選手、草薙一。


「えー!?先生知り合いなの!?」
「草薙選手とどういう関係なの!?」


あぁ、生徒たちの声が耳に痛い…。
別にこういうのが嫌いな訳ではない。それよりもう慣れたという方が正しいかもしれない。一はすごく人気の選手だ。技術だけじゃなく、ルックスもいい。B6が揃っていた時だって私は散々言われてきた。
昔からこうだった…でも!!言えない。口が裂けても言えない!!
私たちが結婚しているなんて!


「あ?なんだ、まだ言ってなかったのか?」
「言うってなに………。ってダメよ!!!」
「はぁ!?」


言わせないわよ!結婚して、新婚ホヤホヤで…愛し合ってます!なんて。


「はいはい。皆は下校時間だから帰りなさい。もう門も閉めますからね。一はこっち!」
「おい、!引っ張るなよ」


一を無理矢理校舎に連れ込んだ。そうでもないと何を言われるか分からない。
うぅ…別に隠したくてこんなことしてるんじゃないし、もっと堂々としたいのに…。


「ぐすん……」
「お、おいー?顔がヤバイ事になってるから戻ってこーい」
「誰のせいよ!誰の!!」
「俺かよ!」



一体何かと思えば…。一は私を迎えに来ただけらしい。
しばらく合宿遠征で会えなかったから嬉しいけど…心臓に悪い。
新婚なんて言っているけど、結婚してからちゃんと二人で落ち着いた時間を過ごしたことはまだない。一縷に一が日本代表枠に残り、その合宿やらで忙しいだけなのだが…。
一は先生達と挨拶を交わし、久々に二人で帰ることにした。


「んー!久々の我が家はやっぱりいいなぁ」
「お帰りなさい。今回の合宿はどうだったの?」
「まぁまぁってとこかな?監督とも話が出来たし。脈アリ」
「それならよかったじゃない」
「まぁね。それよりさーまだ名前、変えてなかったんだな」


う…やっぱり言われてしまった。なんか、今更な気がして変えられないっていうのも本音なんだけど…。


「まぁ、俺も似たようなもんか…。そろそろ正式に発表しないと、何かあったときに困るぞって先輩に言われたよ」
「そっそうなの?」
「まぁなー。じゃないと、が困ることになるからな。マスコミ関係はファンよりややこしい…」
「うん……」


一の横にちょこんと座ると、子供をあやすように頭を撫でてくれた。


「でも、久々にの先生姿が見れて楽しかったぜ?」
「B6の時みたいに人だかりが出来てて焦ったわ」
「ハハ…。実は俺、ファンに囲まれてるのを複雑そうな顔してるの顔見るのが面白くて好きなんだぜ?」
「なっ!なんですって!?私がどんな想いで見てると……」
「知ってる。だから嬉しいんだ」
「は……じめ?」


頬に手をそえられて、一にキスされた。
そう、こうやって優しくされると大変だけどやっぱり幸せだって思ってしまう。


「あ、コレにやるよ」
「何?」


渡されたのは一枚のチケット…。一のチームの最終戦で一番見やすいいい席だ。
このチケット、早くに売れちゃって手に入らないんじゃ…。


「なんとか言ってみるもんだな。先輩の連れが行くはずだったんだけど、キャンセルになったから譲ってもらったんだ。見に来てくれるか?」
「いっ行く!!」
「多分この頃には日本代表とか決まってるだろうし落ち着いてると思う」
「絶対に見に行く!」
「あぁ、待ってるぜ」


嬉しい…。この日は気合を入れて応援しなきゃ!



月日が経つのは早くて、一の日本代表入りやリーグ戦に優勝するかしないかというところまで来ていた。最後の試合で結果が決まるというファンにはたまらない白熱した試合が繰り広げられていた。
だから、相変わらず会えない日が続いていたんだけど…。
試合の前日、初めから電話がかかってきた。


か?何も起きてないな?生徒に迫られたりとかしてないだろうな?』
「……ップ。一、貴方それは人のこと言えないんじゃないの?大丈夫。何もないから」
『何もないんだな!?…マスコミはそっちに行ってないか?』
「あぁ…この前会ったわ」
『はぁ!?』
「『草薙一選手が日本代表入りしましたが、あの若さで代表になった彼について地元の方はどう思ってますか?』って」
『あぁ?!』
「単なる取材」


面白いからからかって見ると一に怒られた。
うぅ…明日試合だからリラックスさせようと思ったのに。


『ったく…。心配させんなよ』
「こっちのセリフよ!」
『あー。でも、声聞いたら安心した』
「私もよ。明日、一生懸命応援するから
『あぁ、待ってる。おっと、集合が掛かったから切るな』
「無理しないでね」
『分かってる。愛してるぜ』


そう言って一は電話を切った。そして私は顔を赤くしたまま職員室前の廊下にたっていたのだ。


先生、帰らなくていいのですか?」
「お、鳳先生!」
「その様子では電話の相手は草薙君ですか?」
「え?…はい、明日は大事な試合ですし」
「彼の活躍は耳に入ってますよ。とりあえず、また顔を出すように言っといて下さい」
「はいっ」

鳳先生も応援してくれてるし、私も頑張らなきゃ!



翌日、スタジアムお中は両チームのサポーターでいっぱいだった。さすがに最終戦だから一のユニフォームをきたファンもいっぱい。
私の席はコートが一望できる場所。最前列で、何だか私のほうが緊張して心臓が張り裂けそうだった。でも、入場してきた一は私のほうを見て笑ってくれた。それを見て少し安心した。
息を飲むような展開。両チーム共に引かず、なかなか点も入らない。
一に対するマークも強く。何度もこけていた。


「……!!」


もう時間が無い。早く点を決めなければ…。
祈るように一の姿を追いかける。


「あ……はじめっ!」


声に出して名前を呼ぶと、まるでその声が届いたかのように口元が笑って…。
一瞬でスタジアムの中が大きな歓声で包まれた。
一がハットトリックを決めたんだ。
嬉しさで一気に涙が溢れてきた。歓声が止まない間に試合終了を告げるホイッスルが響いた。
そして………。


!!」


一が私のほうを見て嬉しそうに手を上げていたんだ……。




「では優勝の決勝点を決めた草薙選手にインタビューしたいと思います。日本代表も決まり、チームも優勝。今のお気持ちは?」
「サイコーに嬉しいです」

ワーッとスタジアムに響く歓声。
大きなスクリーンにアップで映っていて、カメラのフラッシュを沢山浴びている。


「コレを一番に誰に伝えたいですか?」
「えーっと……俺の大切な人に」
「大切な人とは恋人ですか?」
「いえ。俺の奥さんです!」


ざわめくスタジアム…。それもそのはず、これは誰も知らない大告白だ。
私が一の言葉にびっくりしていたのは言うまでもない。
そして、一はインタビューの最中なのに、コートから観覧席の私のところまで来てくれて…。


の声が聞こえたんだ…。本当、のおかげ」
「…は、じめ………」


涙が止まらなかった。嬉しくて、嬉しくて……。


「バカッ!……」


泣いている私を一はギュッと抱き締めた。
そして…。


「俺たち、愛し合ってます!」


って、皆の前で宣言してくれたんだ。



その後がもう大変で。新聞には一面トップで抱き合っている写真は載るし、生徒にはせまられるし…。
当の一はというとやっとすっきりした。ととても、満足そうだった。
こんなにも大変なのに…。


「はぁ…やっとまた一日が終わった」


毎日毎日の質問攻めはさすがにこたえる…。


「草薙先生」
「はぁ…」
「く・さ・な・ぎ先生!」
「え?私!?」
「だって先生じゃなくて名前は草薙なんでしょ?それより先生、ここの問題が分からなくて…」
「どの問題?」


『草薙先生』って呼ばれるようにもなった。
正直、まだ慣れないけど。


「先生、ありがとう。さようなら」
「気をつけて帰るのよ」


でも…嬉しいかも。


「また顔が高速変化してるぜ『草薙先生』」
「こっ高速変化なんかしてない!……一!?」
「迎えに来たぜ」
「おやおや、卒業してもまた学校内を乱してくれた問題児じゃないか」
「鳳先生、そりゃねーだろ?奥さん迎えに来ただけだし」


…うぅ。でもやっぱり恥ずかしい。


「私一人で帰れるわよ?」
「っるせーな。いいだろ別に…。仕事終わったなら帰るぞ」
「……もぅ」
「おやおや、見せ付けてくれるね」


鳳先生が呆れた顔で私たちを見ていた。


「じゃあ、お先に失礼します。鳳先生」
「また明日、草薙先生」


大変でも構わない。一がそばにいてくれたから私も頑張れる。
だって私たち『愛し合ってる』もの!