「はぁ…」



ライブハウスの楽屋で瞬は大きく溜息をついた。
ライブが終わり、一段落していたのも束の間、楽屋の中は瞬の溜息により重くなるのだ。
ヴィスコンティのメンバーが顔を見合わせ、リーダーである瞬の様子を伺った。



「おーい、瞬?またどこか別の世界に行ってるぞー」



裕次の声にも耳を傾けず、瞬はベースを抱えたまま、別世界にワープしている。
ヴィスコンティのメンバーは困り果てたようにしていると、瞬の携帯が鳴った。
瞬は飛びつくように電話に出る。



「もしもし!??」
『瞬君…ごめんね、今日ライブ行けなかった…』
「今どこにいるんだ!?」
『本当、ごめんね…。疲れてるだろうから今日は休んでね』
「おい、!」



無惨にも電話は切られてしまった。すぐに掛け直すも繋がらない。
…最近、の様子がおかしい…。
まるで避けられているかのようだ。
メジャーデビューしてから仕事も増えて、忙しい。バンド自体は軌道に乗っている。でも、恋人のとの時間が取れなくなっている。
時間を見つけてはメールや電話をしているのに最近は返事さえ返ってこない。
何故だ?やっぱり俺が忙しいから……。
ライブの予定が多く、練習やリハのばかりで全く会えていない。
売れるのはとても喜ばしいが…に会えないのは本気で辛い。



「瞬、オイ、大丈夫か?」
「大丈夫だ。もう時間か?」



祐次にはそう答えたが正直ヤバイかもしれない。
するとまた携帯が鳴った。



「もしもし…」
『おい、瞬!お前まだ楽屋にいるのか!?』
「草薙?」
『先生が倒れたんだ。今、救急車で病院に向かってる。翼がそっちまで迎えにいってるから2人で病院に来い!』
「なんだって!?」
『いいな?翼が行くまで待ってろよ!!』



あの馬鹿…!一体何で……。
数分で真壁のバイクがライブハウスに到着した。
そのまま後ろに乗せてバイクは出発。
丁度草薙とライブハウスから帰る途中、人だかりが出来ていて、その中に倒れているがいたらしい。
病院に着いて、病状を聞くと風邪と疲労によって肺炎を起こしかけていたようだった。
は相当な無理をしていたらしい。
身体も前より細くなってやつれてるし…。
病室での隣に座って頬を触る。
こんなになるまで…一体何をやってたんだ?
そう考えながら、瞬はベッドの横で手を握ってやることしか出来なかった。



「………?」
?」
「…瞬………君?」



はそれから丸一日目を覚まさなかった。風邪による高熱や、発作に苦しみながら眠っていた。
目を開けたばかりのは状況が把握できておらず、少し戸惑っていた。
俺が道で倒れていたことや、草薙たちが見つけて病院に連れてきたことなど、経緯を話すととても驚いていた。



「で?何でそんな身体になるまでほっておいたんだ?」
「…えっと、その」
「はっきり言えよ…」
「瞬君に会いたかったの…」
「は?」



思わず拍子抜けした声を出してしまった。



「だって、学校の行事とかしが瞬君のライブと重なって……全然会えないし」
「だからって…」
「…少し風邪っぽくてもせっかくのライブだから見に行きたくて……だから…」
「じゃあ、何で電話した時に体調が悪いことを言わなかった?」
「…心配かけたくなくて」
「バカ…」



に覆い被さるように抱きついた。
そう、この温度が本当に落ち着く…。



「瞬君?」
「しばらく仕事が落ち着くんだ」
「え?」
「だから、しばらくの間はゆっくり出来る」
「……うん」
「一緒に入れなかった分の埋め合わせじゃないが…」
「うん…」



一緒にいよう…と耳元で囁いた。