「なぁ…いまさらなんだが……」
「何ですか?」
「俺と、夫婦にならないか?」
「え?」
「いやか?」
「いやなんかじゃ……!」
もうその時には涙で何も言えなくなってしまっていて、嬉しくて嬉しくて、その気持ちが強くて言葉が出なくて…。
原田さんはとても困った様子であたふたしていたけれど、私をそっと抱き締めてくれて…。
もう何度抱き合ったか分からないのに、抱き締められるととても心臓がうるさくなって…飛び出てしまうんじゃないかって思うくらい…。それくらいドキドキするの。
とても他愛の無い事ですけど…私は貴方と一緒に生きたいんです。
そうして私達は夫婦になりました。
「……」
「おはよう」
「お、おはようございます」
同じ布団の中で朝目が覚める。すぐ近くに左之助さんの顔があって…。いつも私が目覚める頃には、左之助さんは起きていて、笑いながらおはようって言ってくれる。
最近は布団の中でゆっくり過ごす事が多い。
「今日は何が食べたいですか?」
「んー…」
「もう!冗談はやめてください」
左之助さんは私をよくからかう。からかうのが楽しいのかいつも笑っている。
私は左之助さんの腕の中に抱き込まれて、少し身構えてしまう。
「冗談じゃねぇって……」
「うっ……」
そんな声で言われたらドキドキしてしまって…左之助さんの胸に顔を押し付けて隠す。
「どうした?」
「…何でもないです」
毎日こんな感じ……。
昼間は一人で家事をこなして、買い物にも行く。左之助さんの酒の肴を毎日作るのも私の仕事。仕事をして大変な左之助さんを癒してあげなければ。
…だけど。
「ー!帰ったぞー!」
「おかえりなさい…」
お酒の臭いをさせた左之助さんはここ最近毎日のようにお酒を飲んで帰ってくる。食事も家ではほとんど食べなくなった。
食事は翌朝にまた食べればいいから問題はないけれど……。正直な話、少し寂しい。
仕事の付き合いもあるだろうけど…こんな、毎日なんて。
「お食事はもう済まされましたか?」
「おう、今日は帰るつってんのに、連れて行かれてな」
「そうですか、ではお風呂にされますか?」
「あぁ、そうするよ」
左之助さんが風呂場に向かって、着替えをあとから持っていく。鼻歌を歌いながら汗を流す。そして私は一人で台所でご飯を食べていた。
少し寂しくて……。新撰組の屯所にいた頃は、とてもたくさんの人でご飯も食べたのに…。最近はずっと一人だ。
ご飯も美味しくなくて、半分くらいで食べるのを止めてしまった。
「?」
「あがりましたか?…今、お茶でも………」
台所で片付けをしていると、後ろから声がした。どうやら左之助さんがお風呂から上がったらしい。
その時、風呂上りのいい香りと温かな体温が私を包んだ。
「何、泣いてんだ?」
「え?…泣いてなんか……」
「嘘ばっか…」
後ろから抱き締められていて、左之助さんの少し切なそうな声。
私は無意識に泣いていたようで…声が勝手に震えてしまう。
「……悪い。俺だよな、を泣かせてるのは」
「左之助…さん?」
「一人にして悪かった。俺はダメな夫だな」
「……さ、の…」
「一緒にいたいのに、離れちまって悪かった」
「…………バカ」
私は左之助さんの腕の中でしばらく泣き続けた。困ったような表情で優しく抱きしめてくれていた。
「を見ると、がどうしても欲しくなってな」
「え?」
「お前を壊しそうで……怖くなった」
落ち着いた所でゆっくりと話し出す。
つまり……それっていうことは………。
左之助さんは私を抱きたくなるから、毎日仕事が終わった後、遅くまで飲んで帰って着たりしていたってこと?
「そんなの……」
「ん?」
「別に…構わない……です」
左之助さんの抱き締める力が強くなって……。
「バカ、煽るなよ……」
「…すみません」
でも結局、左之助さんは我慢できなくなったみたいで…。
朝、鳥の鳴き声が聞こえて目を開けるとまた左之助さんが私をみて笑っていた。
「おはよ」
「おはようございす」
「あー……」
「どうしたんですか?」
急に左之助さんが大きな溜息をはきながら私を見ていた。
「幸せだなぁと思ってな」
「……………」
「照れんなよ」
「う……」
「愛してるぜ、」
「私もです…」
いつまでも愛のある温かい朝。甘くて優しい夫婦の朝。
20110826再録