「匡君、きょうくーん!!」
「っせーぞ……」
「匡君、匡君、朝だよー」
身体をグラグラ揺らされて、かなり苛々する。せっかく寝てるのに、何で起こされなきゃなんねェんだ。朝は嫌いだ……。
しかし、身体はますます揺すられる。
「匡君、早く起きないと千景が怒るー!」
「うっせーぞ、!!撃ち殺されてェのか!!」
「やっと起きたー。おはよー、匡君」
銃を向けても一切動揺せず、相変わらずヘラヘラ笑ってのん気に挨拶までしてやがる。
全くもって命の危険に晒されていると思っていないらしい。
風間の所にある日やってきた女鬼、名をという。俺らと一緒に生活するようになった。
特に戦える訳ではなく、出来る事なんてほとんどないのに風間はコイツを近くに置いている。まるで小姓のように。
「でめぇ…ヘラヘラ笑ってるんじゃねぇ!俺はまだ寝る」
「匡君、千景が読んでるから起きてよー」
再び布団にもぐってもの声が聞こえる。
一回本気で殺してやろうか…。
「千景がね、偉い人と会うから匡君も来いって。朝ご飯もちゃんと作ってあるし、九寿ももう起きてるの。匡君が起きたらばっちりなの!」
「わぁーったよ!分かったから静かにしろ!」
ベラベラと女はよくしゃべる…。いや、がうるさいだけなのか?
ガックリしながら俺は仕方なく起きる。
「千景ー、匡君起こしてきたよー」
「撃たれなかったのか?」
「撃たないよー。だって、匡君だもん」
『だって匡君だもん』の意味がわかんねェし…。
4人での作ったであろう朝食を食う。こんなに抜けてる性格なのに料理だけは上手い。
文句を言うに言えないほど美味いんだ。
「千景、美味しい?」
「あぁ、美味いぞ」
「九寿も?」
「あぁ、はいい嫁になれる」
「へへへー」
とても嬉しそうなだが俺の方をチラチラ見ながらそわそわし始める。
分かりやすい奴…。
「、今日は帰りが遅くなる。食事もいらん」
「うん、分かった。ねぇ千景、買い物に行ってもいい?」
「一人でか?」
「だってお野菜も減ってきたし…あとお魚も!一人で大丈夫だよ。すぐ近くだもん」
風間との会話は兄弟の様で、風間が妹を心配する兄のようにしか見えなかった。
結局、一人で出かける事を許可した。
俺の方をずっと気に駆けていたが、出かけるまで一言も話さなかった。
「偉い奴らは肩がこるぜ…」
文句を言いながら歩いていると、2つの籠を持った少女が八百屋から出てくる。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「大丈夫、大丈夫ー。これくらい一人で持てるー」
籠には大量の野菜と他にも色々入っているようだ。
明らかに無理だろ……ってくらいの荷物をもってはよろつきながら歩き始める。
俺は溜息をついて、に近付き、荷物の片方を持ってやる。
「何が一人で持てる…だ。フラフラじゃねェか」
「匡君!今日は遅くまで用事じゃないの?」
「今は別行動だ。ったく、馬鹿みたいに買い込みやがって…」
「一人でも大丈夫だもん……」
「屋敷まで持っていってやる。手が焼ける女だぜ」
俺がそう言うとは膨れてゆっくり歩き始めた。
しばらく沈黙で、俺の様子をチラチラ伺いながら何か言いたそうににしていた。
めんどくせー奴、とか思いながらの様子を見る。
「何だよ」
「え?」
「さっきからジロジロ見やがって」
「……匡君、私の事嫌いなの?」
「はぁ?」
すげー間抜けな声が出てしまった。はとても心配そうだったが、俺は笑いを堪えるのに必死だった。
鈍感というか…なんというか……。
どこか抜けていると思ってはいたが、予想以上だ。
「だって!匡君、いつも怒ってるし……」
笑う場所ではないのは十分分かっていたが、どうしても耐えられなくてクククッと笑い始めてしまった。
は泣きそうな顔で俺を睨み付けていた。
「嫌いなのにわざわざ荷物なんか持つかよ、バーカ」
「だけど!いつも朝、怒ってる…」
「ありゃ、朝が弱いだけだろうが…」
呆れた顔でを見ると納得行かなさそうに『うー』と唸っていた。
間抜けでヘラヘラしてて、考えてる事が分かるほど馬鹿な女。だけど、見ていて飽きない。
「じゃあ…匡君は………」
「間抜けで手が焼ける馬鹿女としか思ってねー」
「ひ、酷い!!」
いつの間にか屋敷の前まで来ていて、俺は立ち止まってを見る。
さっきの言葉に傷付いたのか、ずっと下を向いている。
おもしれー女。
「好きだぜ、バーカ」
「!!」
「ほら、後は一人で運べよ」
籠を置いて、さっさと来た道を引き返す。
後ろから「匡君のバカー!」という声が聞こえたが、無視する事にした。あいつの気持ちを聞くのもまた今度にしよう……。っていうかバレバレだがな。
「匡君、きょうくーん!朝だよー!!」
「っせぇな……」
「早く起きなよー。もう千景達出かけたよー」
「少しくらい静かにしろ」
「匡君?わっわわっ!!」
の腕を掴んで布団の中に引っ張り込む。
女なんて軽すぎて壊れてしまうんじゃないかと思うが…そうも簡単に捕まってしまうもだ。
学習能力が足りない。
あの日から何度も布団の中に引っ張り込んで、を抱き枕のようにして眠ったり、朝から悪戯したり……。
ま、その後、がすごく不機嫌になるのが難点だが…。
「うるせーって何度言ったら分かるんだ」
「起きてるんじゃない!」
「あー。うるせー、聞こえねー」
そう言って、を抱き締める。
いつもならここでは抵抗してかなり暴れ回るんだが…。
今日は腕の中で大人しい。
「?」
「……匡君」
「何だ?」
「大好き…」
「しってるよバーカ」
2人はそのまま昼まで布団の中にいたとかいなかったとか……