「キャッ…」
「!?どうした?」
「さ、佐之助さん……。む、虫が…」
「虫?」
嫁さんの声が聞こえて駆け寄ると、台所で足元を走るすばしっこい虫点。
少し血相を変えて怯えている姿がなんとも愛らしい。
だが…慌てて見に来た自分としては少々拍子抜けしてしまう。
何かに襲われていたり…とか。いや、襲われてたら困るんだが……。
複雑な気持ちに溜息をついて、その虫を殺して捨ててやると、は安心して俺のほうを向いた。
「ったく…虫くらいで」
「だって、苦手なものは苦手で……」
少し照れながら目をそらす。
鬼なのに…と言ったら怒るので言わないが、今まで人が殺されてるのも見てきたのに、虫が苦手なんて。少し、笑える。
「ま。俺が退治してやるから安心しろ」
ポンと頭に手を置いて微笑むと同じように笑い返してくる。
こんな他愛のない事が幸せっていうんだろう…。
「でも…」
「何だ?」
「何で佐之助さんは私の声に気付いたの?」
「そ、それは…」
ずっと嫁さんっていいなぁ…なんて思いながら見てたなんて……。言えねぇよなぁ…。
それでも、の不思議そうな表情から、何か答えなければ逃してくれなさそうで…。
「お、お前の事なら何でも分るんだよ、俺は」
「…!!」
なんてカッコいいこと言ってみるが、本当はの事を一時も話さず見ていたい…。