「ただいまー!母様どこー?」
「庭にいるわー」



バタバタと足音が聞こえて小さな少年が庭に走ってやってくる。
そして、洗濯物を取り入れている私の腰に抱きついてくる小さな姿。



「ただいま、母様。寂しくなかった?」
「おかえりなさい、誠。すこし寂しかったけど、大丈夫よ?」
「走って帰ってきたんだ!母様を一人にしてられないからな!」



えっへんと胸をはる小さな男の子。
息子の可愛らしい姿につい笑みがこぼれてしまう。
すると襖の開く音がして大きな欠伸をしながら左之助さんが出てくる。



「起きたんですか。左之助さん」
「うるせー声で目が覚めちまった。おい、誠。何時までにくっついてるんだ?」
「なんだ…いたのかよ」
「いたのかよとは何だ、いたのかよって。父親に向かってなんて口の聞き方を…」
「はいはい。喧嘩はしないで下さい。誠も父様にそんな言い方しないの」



私が制すと二人は急に黙る。
洗濯物を取り入れ終わったので、お茶をいれるために台所へ向かった。







縁側に戻ると、左之助さんと誠が睨み合っていて…。
誠の方は今にも左之助さんに殴りかかろうとしている。
驚いて目をパチパチさせて2人を見ていると、誠が大きな声をあげて左之助さんに殴りかかる。
しかし、左之助さんはひらりと攻撃をかわして、まるで相手にしていない。



「おらおらどうした?全然当たってないぞ」
「うるせー!この不良親父!」
「誰が不良親父だ、誰が!」
「うわっ……攻撃してくるなよ!」



子供の喧嘩をみているようで…なんだかとても微笑ましい。
2人の姿を見て笑っていると、左之助さんが私に気がついた。そして、私の方を見て微笑んでくれる。その隙を見て誠が殴りかかり、見事命中!!



「甘い!」
「うわぁぁ!」



腕を後ろにひねって動きを止める。痛いと叫ぶ誠を見て、勝ち誇った表情の左之助さん。



「おわりましたか?」
「おう、今さっきな」







2人にお茶を渡し、茶菓子も差し出す。
不満そうな誠は、ただ静かにお茶を飲んでいる。左之助さんは逆に相変わらず勝ち誇った様子で…。
まるで兄弟みたいだとほのぼのしてくる。



「はい、お団子」
「………」
「誠?」



いつもなら飛びついてくるはずなのに団子を差し出しても見向きもせず…。



「おーい。辛気臭い顔すんなよ。俺様に勝とうなんて百年早いだろーが」
「左之助さん!」
「はいはい…」



また喧嘩を吹きかけようとする左之助さんをすこし睨むと、大人しくなる左之助さん。


「俺が母様を守るんだ!友達と遊んでくる!」



皿の上の団子を一口で食べてしまうと誠はお茶もその勢いで一気飲みして、走って家から出てしまった。
再び目をパチパチさせて驚く私を見て左之助さんが笑っていた。







、モテモテだな」
「一体、私がお茶を入れている間に何があったんですか?」
「んー?俺が昼間のん気に寝てるのが気に食わないんだと。友達の父親は働いてるってな」
「まぁ!」



左之助さんは毎日仕事があるわけではない。仕事の忙しさによっては何日も帰ってこない事だってある。
仕事が休みの時は今日みたいに昼過ぎまで寝ている日もある。
学校で父親の話しにでもなったのか…。



「心配するな。アイツは俺の仕事の事はよく分かってるさ。ただ、友達に上手く説明できなかっただけだろ」
「そうですか……」



私の頭にポンポンと軽く手を乗せる左之助さん…。



「それにしても、アイツの母親好きには困るな」
「そうですか?」
「母様、母様って…。さっきのも何だよ『俺が母様を守るんだ』?ガキのくせに偉そうな…」
「ヤキモチですか?」
「…………」



左之助さんが黙ってしまった。
様子を伺ってみると照れくさそうに目をそらしている姿。微笑ましくて、私は左之助さんに寄り添う。



「嬉しいです」
…」



ゆっくりと頬に手を添えられて、口付けする。
ほのぼのとした風がゆっくりと流れる。何もないような毎日だけど、とても幸せな日々。