戦が終わりを向かえて、勿論外国という新しい敵が日本に攻めてくるかもしれないと言う状況ではあったが、私も斎藤さんも私の故郷でしばらく過ごしていた。
会津藩の人々が斗南に移る…という話を聞いて斎藤さんも行くと返事をするつもりでいるようだった。



「おかえりなさい、斎藤さん」
「………」



玄関で彼を迎えると、不機嫌そうな表情…。
気付いた時にはすでに遅し…。私はまた一さんの事を苗字で呼んでしまいました。
一さんに名前で呼べと何度も言われているのに、いまだになれない私。



「お、お帰りなさい、一さん」
「ただいま、



名前を呼ぶとやっとただいまと言ってくれる。一さんは案外そう言う所が子供…なのかもしれない。
勿論、そんな事を言ったら怒られてしまうから言わない。
一さんの上着を受け取り居間へ向かう。




「…はい、何ですか?」
「明日、出かけるぞ」
「明日…ですか?」



珍しい。毎日毎日、仕事で忙しいのに出掛けるなんて、休みでも取れたのだろうか?
勿論、2人で出かけられるのはとても嬉しい。


「何か都合でもあるのか?」
「いいえ、ありませんよ。でも、一さんがそう言って下さるなんて…お仕事はお休みですか?」
「たまには休みたくもなる。もうすぐ斗南への旅も始まる。ゆっくりしておくべきだろう…。それに、最近はとあまり一緒にいられないからな」
「は、一さん……」
「ふっ…。そんなに赤くならなくともよいだろう」



私が赤くなるのを見て、一さんは笑っている。
屯所にいた時より表情が豊かになったけど、今はその表情を見るだけでドキドキしてしまう。







食事の準備をして2人で食卓を囲む。一さんはいつも黙って食べている。




「はい、なんでしょう?」
「斗南に行く前に会津の人達が宴をするらしい」
「宴…ですか?」
「あぁ、出発祝い…とか何とか」



少々罰が悪そうに表情を曇らせる。茶碗を置いて、一さんの話を聞く。



「それで……どうしたんですか?」
「お前も出て欲しいと…言っててだな」
「私も?」



一さんの表情が暗い理由が分かった。
女と2人で暮らしているのは会津の人には知らせているらしいが、一さんは誰一人として呼ぶ事はなかった。
いまだに動く事が多いため、男装のままの私…。
女と一緒にと行ってるのに男装のままではまずい…という訳だ。



「明日は新しい着物も見に行こう。本来ならもう男装しなくてもいいんだからな」
「………はい」



着物なんて…今更着ても大丈夫なのだろうか…。似合わないとか、おかしかったらどうしよう…。
頭に不安が過ぎって、私は黙り込む。



?」
「は、はい?」
「どうした?」
「いえ…なんでもありません」




翌日私は一さんと一緒に市場の呉服屋に行った。鮮やかな色の着物がたくさんあって目が奪われる。
呉服屋の女主人はすぐに私が女だと分かったらしく、この色が似合うとか柄はこっちがいいとか次々と着物を持ってきた。
一さんは長くなるから少し他の用事を済ませてくるとかで出て行ってしまった。



「旦那さんの好きなお色ってなんですか?」
「え?」
「あら?結婚してるんじゃないんですか?」
「けっ結婚!?」



女主人は着物と私を見比べながら楽しそうに話している。



「違うんですか…。まぁ、あの方はお嬢さんに相当惚れてらっしゃるようだし……あぁ!こんな色はどうです?浅葱色!」







「失礼する。、着物は決まっ……」



一さんがしばらくして戻ってきたが、私を見て固まっている。



「あ、あの……変ですか?」



髪を下ろして着物を着た。浅葱色の鮮やかな色の着物。



「い、いや………」
「綺麗すぎて言葉がでんようですね。他の着物もお作りしておきますので、また御代はその時にまとめておねがいします」
「分かった」



呉服屋を出てからも一さんは黙ったままで…。
やっぱり似合ってないのかな?




「はい…」
「家に帰るぞ」
「え?…は、はい!」







久々に着た着物に少しもたつきながら家の敷地に入る。しかし、それまでの間は一言も話さなくて…。
似合っていないのだと思って、私はうつむいたまま…。
そして、家の中に入って次の瞬間、私は一さんに抱き締められていた。



「一…さん?」
「…やっと2人になれた」
「え?」
「…着物姿を誰にも見せたくなかった。…あまりにも、綺麗だったから」



予想外の言葉に私はドキドキする。



「……おかしく…、ないですか?」
「おかしいはずがないだろう。似合いすぎて、他の奴に見せたくない」



あぁ…よかった。
似合ってないわけじゃないんだ…。



「やはり宴は不参加だな」
「え?何でですか?せっかく着物…」
「こんな可愛い姿を見て、変な虫でもついたら鬼が気じゃない」



真剣な表情…。その眼差しに顔が一気に赤くなる。



「…一さん、独占欲が強いんですね………」
「当たり前だ。お前を愛していいのは俺だけだ」
「……!!」